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「よし。あとはコイツを近くの役所に突き出すだけだな。」 ボロボロのビスカを縄でぐるぐる巻きにし、パンパンと手を叩くクラウスさん。 「ほい。じゃあ、これ。」 彼は懐からロストストーンをだし、オレに差し出す。 「よかったぁ〜〜!帰ってきたぁ・・。」 安堵するオレ。 慎重に再びロストストーンを懐にしまうと、ふとある疑問が浮かぶ。 「そういやさ。なんでオレが『石』をここにしまってるの知ってたんだ?」 「え?」 オレに問われてクラウスさんは一筋の汗をたらして視線をそらす。 「カン・・・・?そう・・! トレジャーハンターのカンってヤツ?あはは! シュガーちゃんもそのうち修行を積めばわかるようになるって。うん。」 あやしい・・・。 オレはジト目でクラウスさんを睨む。 「そういやオレ、あんたに一度もトレジャーハンターだなんて言ってないのに・・なんでオレがトレジャーハンターって知ってるんだよ・・・?」 「それは・・・・・。」 じーっと見つめるオレの視線に耐えられず、クラウスさんはがっくりと肩を落とす。 「わーったよ。白状すればいいんでしょ? シュガーちゃんが気を失ってる間にさ。持ってる物を物色したの。 そん時にトレジャーギルドの登録証と、『石』を見つけたのさ。」 「はぁああああ!??」 オレはクラウスさんのあまりの非常識な行動に対し、非難の絶叫をあげる。 「あ。勘違いすんなよ!別に何も盗ってないから。これは俺の趣味。探究心ってやつ?」 「最悪。変態。人としてサイテー。」 ある意味まだ盗る目的の方が健全な気がする・・・!! やっぱりこの人尊敬できん!
その時―― ギャオウーー!!!! 突然背後から聞こえる凄まじい咆哮。 「な・・なんだ!?」 驚きの声をあげ、辺りを見回すクラウスさんを除く一同。 「ふ・・・ふはははははは・・!」 突然高笑いをあげたのはグルグル巻きにされたビスカだった。 「何がおかしいんです!」 ナイツの言葉に、ビスカは勝ち誇ったようにいう。 「最後に笑うのは俺だったみたいだな!」 どすん・・!どすん! 背後から聞こえる大きな足音。 そういえば・・今朝・・これと同じようなことが・・・・。 「どうして俺がここで戦ったと思う!?」 オレたちのすぐ後ろに巨大な気配・・! おそるおそるオレは振り返る。 「ここはな・・・」
ギャオウーー!!
けたたましい咆哮の主は黒い強大な生物。 「俺の使役竜の住処なのさ!!」
そう――オレたちをさらったあの黒竜だった! 「うはぁ・・・・デカ・・・・。」
改めてみるその大きさに自然と声が出た。 洞窟の中とはいえ、かなりの広さがあったはずのこの場所がかなり狭く感じる。 「ふはははっはは!!これでお前らはおしまいだよ!! さあランドシャークよ!俺をコケにしたこいつらを――」 「こいつ・・やっぱりバカですね・・・竜にまで『陸のサメ』と名づけて・・・・。」 ボソッとオレに耳打ちするナイツ。 「そこ!!聞こえてるぞ!!!」 ナイツに吼えるビスカ。こんな小声が聞こえるとは、なかなかの地獄耳! 「あのねぇ。『魔物笛』はもうないんだぜ? しかもあんた。ぐるぐる巻きにされてちゃ、たとえ『魔物笛』持ってたとしても吹けないでしょーが。」 あきれた声で言うクラウスさん。 確かに。実はオレたちもそのことには気がついていた。 だからこそドラゴンの出現にそこまでうろたえていなかったのだが・・ 「ふ・・・ふはははは!!」 しかし、ビスカがあげたのは勝ち誇った高笑い。 「甘いっ!俺はなぁ!今までコイツに対しては魔物笛なんか使ったことねぇぜ!? 俺の声だけで言うことを聞くようにしつけてあるのよ!」 『ええぇ!?』
オレとナイツ、ライアの驚きの声がはもり、クラウスさんは片眉をぴくんとあげる。 ちょっと待て!それは話が違うっ!声だけで操れるなんてまるで一流の悪役みたいじゃないかっ! いや、確かにコイツ強かったけどーー! 「さあ・・・ランドシャーク!!まずはその緑の髪のクラウスからやっちまえ!!お前の地獄の握力で握りつぶしてやるんだ!!」 ギャオウーー!! 咆哮と共に、つかみかかるランドシャーク!剣を抜き、身構えるクラウスさん。 しかし―― 「え?え?え゛ーーーー!??人違いですぅーー!!」 つかまれたのは何故か隣にいたナイツ。 「ナイツ!!」 オレは慌てて剣を抜き、ナイツを助けようとするが・・ 「待て!」 クラウスさんによって静止させられる。 「なんで!?」 オレの問いにクラウスさんは答えず、頭上のナイツを見つめる。 「い゛・・いや゛ーー!!食べないでーーー!!!」 泣き叫ぶナイツにドラゴンの大きな口が迫る・・・!!! 『ナイツーー!!』 オレとライアの悲鳴がはもる! が・・・・・・
ぶちゅ。 「・・おお・・・。ディープキス・・・・。」 その光景を目に、ライアがつぶやく。 頭からがっぷりと食われるかに見えたが、ランドシャークは実に優しいキスをナイツに贈った。 まあ・・・ディープキスといってもナイツの顔全部がランドシャークの唇に収まっていたが・・・・。
ギャオウギョオウ!ギャオオオウ!! なにやら必死にナイツに訴えいてるランドシャーク。 当のナイツ本人はランドシャークのよだれまみれになった状態で白く固まっている。 「な・・・なんだ・・・・?」 わけが解らないオレに向ってクラウスさんは剣を鞘に収めつつ 「よし。翻訳しよう。」 「翻訳!?翻訳ってドラゴンの!?」 「ああ。こう見えて俺ってばマルチリンガルなんだよね。いろんな種族の言葉知ってんのよ。旅生活が長いと勝手に知識が増えてさー。」 ケラケラと笑うクラウスさん。 旅生活が長いって理由だけでドラゴン語が解るもんなんか・・・? 「えーとそれじゃ・・・。 いやーん!せっかくふたりっきりになれたと思ったのに〜! ちょっと私が出かけてる間に邪魔者がいっぱいじゃないの! 誰!?ねえあの人たち誰なの!?もうヤキモチ焼いちゃったから思わずキスしちゃったじゃない! いやーん。恥ずかしい!きゃは☆ 私ね?私結構あなたに本気なんだ、ぞ? あ。そこにいるビスカは過去の男だから勘違いしないでね??あいつってばセンスはないわ、ダサいわでもう飽き飽きなのっ! 素敵なお部屋とお食事だけが未練だけど、そんなことを捨てられるぐらいあなたを愛してしまったんだから♪私・・こんなに胸が熱くなったの初めてなの!」 ご丁寧に声まで変えて熱演するクラウスさん。 「えーーとつまり・・あのドラゴンはナイツに惚れたと?」 「うん。そうみたいだね。」 急に地声に戻って答えるクラウスさん。 またかーー!! いや、実はナイツが人外から惚れられたのは今回が初めてではないのだ。 オレはちょっと前に出会ったドラゴンの子供を思い出す。 そーいやアイツなんか男のくせに・・何故かナイツにベタ惚れだったなぁ。 よくわからんが、ナイツはやたら動物に好かれる体質らしい。 「ふ・・・ふざけるなーー!!!」 もちろん、それに黙っていなかったのはロープでぐるぐる巻きにされたままのビスカ。 最後の切り札だったドラゴンがまさかこんなオチとは当人も思わなかったろう。 「おい!ランドシャーク!!!命令を聞けっ!!聞けないのか!!おい!コラ!」 ギャオウー・・?ギョオウギャオ・・・!ギャフっ!ギャフフッ!! ランドシャークがあからさまに不機嫌な雰囲気でビスカを睨みつける。 「あ。やめといたほうがいいぜ?」 その様子に気づいたクラウスさんは、オレとライアの手引き、後ろに下がりつつビスカに言う。 「何が!?」 「彼女さ、『あたしに命令だぁ?アンタは過去の男なのよ?あたしとこの方の愛の障害になるなら踏み潰してやる!』だとさ。」 「え゛・・・・。」 気が付いたときはもう遅い。 ビスカに巨大なドラゴンの影がかぶり・・
ドーーーーン!!・・・・・ぷち オレたちを苦しめた海賊ビスカの最期。
「・・・うう・・敵ながらこんなオチが最後だなんて・・・。」 そのあまりのあっけなさとバカらしさに、オレはビスカに同情してしまう。 「まあ。いつも都合よく感動的なフィナーレが起きるもんじゃないからね。人生って。」 のほほーんというクラウスさん。 いや・・そりゃそうだけどさ。 だけど奥の手で残しておいたドラゴンが敵に恋して自分を踏み潰すとかあまりに可哀想すぎるだろ! 「さあてっ・・と。それじゃさっさとここを出ますか。時間もないし。」 大きく伸びをし、クラウスさんはランドシャークに歩みよりながらそう言った。 「時間がないって・・?何か急ぐ用でもあるの?」 オレの質問に、クラウスさんはケラケラと笑いつつ 「別に用はないけどさ、急がないと。 だってココ、もうすぐ崩壊しちゃうもん。」 「へ?」 オレはその言葉の意味がわからず、間の抜けた声をだす。 その時
―― まるでその言葉を待っていたかのように ぴしっ!!ぴしししぃ!! ランドシャークの足を中心に地面が嫌な音を立てて崩れていく・・・! 「ななななんだぁ!?」 状況がわからず、驚くオレたちとは対照的にクラウスさんは相変わらずのん気な口調で
「今のランドシャークの必殺ふみつぶし攻撃が、この砦にとってトドメだったってことさ。 この洞窟、あんたらやビスカ自身が散々破壊しまくって耐久力が落ちてんだもん。 もうすぐあとかたもなく崩壊すると思うよ。」 崩壊すると思うよって・・・・ 「そういうことは早く言えー!」 オレは絶叫し、頭を抱える。 「うわあああ!!せっかく旅に出たのにいきなり終了!?死亡フラグ!?散々利用されてオレはポイキャラかーーー!!」 隣にいたライアはすでに自問自答の反省モードに突入していた。 ガクリとうなだれ、地面を叩きつつ 「わしのせいだっ!皆すまない・・!何故だ・・・?何故わしは・・あの時ホノオの魔法なんか使ったんだっ・・・!?だから日ごろからよく考えて行動しろとあれほど・・・」 それぞれ絶望のリアクションをするオレたちをニコニコ眺めながら。 「あんたらってホント反応面白いよねぇ。」 そういうと、クラウスさんは泣き叫ぶオレの首根っこをつかみ、反省モードのライアを小脇に抱えるとランドシャークの背へとジャンプする。 「ギャオウ。ギャオギャオギャッフ?」 さらに彼はいったい何処からそんな声を出しているのか、オレたちにはとてもマネできないような発音でランドシャークに語りかける。 ギャオオオウ! クラウスさんの言葉に答えるかのように、ランドシャークは雄たけびをあげた!
大きな翼を広げるランドシャーク。 「『ぶっ飛ばしていくから振り落とされるんじゃないわよ!』・・だってさ。」 オレとライアに向かってウインクするクラウスさん。 「へ・・・?」 またまた状況のつかめないオレたち。 ――
次の瞬間。 ものすごい速さで、ランドシャークは飛び立つ! オレはその速さに目を開けることが出来なかった。 洞窟の崩れる激しい轟音につつまれ、オレは振り落とされないように必死にランドシャークの背に捕まる。 そんなに時間はかからなかったと思う。
急にその音がやみ、辺りが静かになったと思うとランドシャークのスピードがゆるくなったのを感じた。 心地よい風が体全体にあたる。 恐る恐る目を開けると・・・真っ暗な闇の中に、いくつもの綺麗な光がたくさん見えた。 「外・・・・?」 いつの間にか、辺りはすっかり夜になっていた。 「ライア・・・!外だ外!オレたち助かったー!」 ランドシャークの背中の上でオレはガッツポーズをする。 久しぶりの外の空気は最高に美味しかった。 「ふぅ・・・。」 ライアも隣で安堵の息をつく。
「クラウスさんのおかげだな。ありが――」 「お礼なら、シュガーちゃんのお友達にしないと。」 そういうと、クラウスさんはランドシャークの顔の辺りを目で指す。 そこには彼女に両手でつかまれ、ひたすらキスの嵐を受けているナイツの姿。 「彼女、彼のために頑張ったらしいよ。」 そういうと、クラウスさんはニヤリと笑った。 オレとライアは顔を見合わせ
「確かに・・!ナイツのやつ、特等席だな。」
ライアは激しい求愛を受けるナイツの姿にくすりと笑ってそういった。 まさかあいつの人外にモテる才能がこんなところで役立つとは。 オレはさらによだれでびちょびちょになっているナイツに同情しつつ苦笑する。 「ホント・・・アイツの色男ぶりには感謝しないとな・・・。」
こうしてオレたちはランドシャークに送ってもらい、無事近くの町へとたどり着くことが出来たのだった。 ナイツとの別れを惜しむランドシャークはクラウスさんがドラゴン語で説得してくれた。 いったい、どんな風に説得したのかはよく分からなかったけど・・・。 そのクラウスさんとは町の入り口で別れた。 去り際に「またね。」なんて言われたけど・・はっきりいってもうあの人と関わるのはごめんだ。 また利用されたらたまったもんじゃない。結局今回の一件はあれだけ命張ったわりにオレたちにとってはタダ働きだったし。 あーくそ・・。せめて今回どれだけオレたち・・いや!オレが苦労したか誰かに伝えたい。 そう思い、オレは慣れないペンと紙を手に取った。 さあ、何から書き始めよう?
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