■7■

 

 ちゅん!!

予想通り、ビスカは正面から向ってくるオレに向って怪光線を放ってくる!
しかし、この攻撃はもう嫌というほど受けているわけで!
オレは頭の出来は残念だけど、体の出来ははっきり言って自信のあるほうだ!
考えるより先に体が動く!
一瞬早く体をひねり、怪光線を避ける。

しかし、あっちもバカじゃない!オレが狙っているのが覗き穴というのが解っているらしく、なかなか近づけさせない!
あとわずかというところでオレの剣は鎧をかすめる!

「ちょこまかしやがって・・・!」

ビスカがいらついた声をあげる。

再び放たれる怪光線!今度はかなりの近距離からだ!
だけど、こうくることは予測済み!
『ダークナイト』の怪光線は次の発射に若干だが時間がかかる。
ビスカは焦りからか、発射可能となった瞬間すぐに怪光線を放っている。
つまり、先ほどから同じタイミングでばかり怪光線を放っているのだ。

リズムさえわかればそんなに怖い攻撃でもない。
だけどそれは、今オレが冷静でいられるからこそ気がつけたことで、ヤケクソだったら気がつかなかったかもしない。
クラウスさんってアホっぽいけどやっぱりすごい人なのかも・・。

ちゅん!

徐々に間合いを詰めているの為、怪光線のスピードは遠い時よりもかなり速い。
一瞬の油断が命取り!

オレはすれすれに避け、同時に剣を繰り出す!

ぎん!!

「当たったー!」

「くそっ!!」

喜ぶ俺の声と対照的に、焦りの声をあげるビスカ。

「調子に乗ってんじゃ・・・・」

『ダークナイト』は手を大きく振りかぶる。

「ねえっーー!!」

どかっ!

あれだけ大きく振りかぶれば、避けるのは簡単だ。
『ダークナイト』の強烈なパンチはオレではなく、地面を粉砕させる!
あたりに土煙が立ち込める!
その刹那――

「ホノオ!!」

ライアの魔法が発動する!
炎の球は『ダークナイト』が打ち砕いた地面へヒットする!

どぐわあーーん!!

激しい爆音とともに、さらに土煙は舞い上がる!

今だっ!!

オレは土煙にまぎれて『ダークナイト』の背後へとまわる!

「ど・・どこ行った!??」

オレの姿を見失ったビスカはダークナイトの首を旋回させ、必死に探し回る。

「ホノオっ!」

再びライアの炎の球が土煙を裂く!
同時に動くオレ!

ビスカに迫る二つの気配!

「クソっ!!!どっちだっ!?」

ビスカにとってライアの魔法は当たっても痛くも痒くもない。
だが、覗き穴を狙うオレの剣は違う。

ビスカに向って、土煙を裂いて現れる『何か』!

「くっそぉおお!!」

じょわっ!!

苦し紛れに放った『ダークナイト』のパンチはライアの炎の球へとぶち当たる!

「はずれっ!!」

炎の球とは反対方向の土煙から、一瞬遅れてオレは飛び出す!
『ダークナイト』は機敏な動きが出来ないのも弱点!
ライアの魔法を攻撃したせいで今、ヤツは隙だらけだった!

オレはビスカの覗き穴へと剣を突き出す!!

「ひっ・・・・!」

ビスカの小さな悲鳴が聞こえた。


ぎぃいいいん!!!



・・・しかし、響いたのは硬い金属音。

くそ!『ダークナイト』の中がそんなに余裕のある広さとは思えないが、僅かな隙間を利用して紙一重でかわしたかっ!?


「調子に乗るなぁああっ!!」

ぐるりと旋回し、オレに向ってパンチを繰り出す『ダークナイト』!

「おっわ!??」

ギリギリで剣を引き抜き、倒れこむようにして、ダークナイトのパンチを避ける!
さらに怪光線を放つビスカ!

ちゅん!

「わったった!??」

未だ体勢を整えることが出来ず、ひたすら転がって怪光線を避ける!

ちゅん!ちゅん!ちゅん!ちゅん!

「おわわっわっわ!?」

このまま転がり続けるのは非常にマズイ・・・!!なんとか体勢を整えないと・・っ!
しかし、そんな隙を与えてくれるわけは無く、ビスカは容赦なく怪光線をオレに浴びせ続ける!

「やば・・・っ!」

そろそろ転がるのもきつくなったその時――

「レイ!」

キーワードの声と共に、オレの目の前に無数の氷の矢が突き刺さり、瞬時にそれは厚い氷の壁となる!

じょわっ!

壁はすぐに怪光線に解かされてしまったが、オレが体勢を整えるには十分!

「ありがと!もう体は大丈夫なのか?」

援護してくれたヤツは想像がつく。
オレは再び剣を構え直し、振り返らずに礼を言う。


「君ばっかりにいいところを持って行かれてはたまりませんからね。」

ダメージから回復したナイツ!
さすがセルフ回復搭載!倒しても倒しても復活する男!


ナイツは剣を構えつつ、ライアとともにオレの元へやってくる。
これでようやく3人そろったってわけだ!

「で。どうします?みんなで連携してしつこく覗き穴狙っていきます?」

「うん・・・・。」

ナイツの提案に、歯切れの悪い返事をするオレ。

「なにか引っ掛かることがあるのか?」

そう声をあげたのはオレの様子に気付いたライア。

「いや。どーもそれって効率悪いし、あの中に少しでも避けれるスペースがある以上、アイツとオレたちの我慢くらべになりそうな気がしてさ。
下手すりゃ怪光線避けながら攻撃しなきゃならんオレたちのほうが体力削られた時に危ないかなぁって。」

「まあ・・確かに・・。 じゃあ他に作戦があるって言うんですか?」

「それは・・・」

問われて、オレは言葉につまる。
魔法は効かない。剣も効かない。唯一の弱点は操縦しているビスカ自身。
やっぱりあの小さな覗き穴を狙う以外、ヤツを倒す方法はないのか!?
クラウスさんは皆で力を合わせたら勝てるって言ってた。
それってさっきみたく力を合わせてアイツの隙を作ることなのか・・?

いや。違う。他に何か・・・

思考を巡らすオレの目がふと自分の剣にとまる。

「あれ・・?」

いつの間についたんだろう?
オレ剣には小さな凍りの粒が張り付いて霜がはっていた・・・。

さっきのナイツ援護のレイ?いや・・違う!
そうか!これは・・・・!

「そんなとこでコソコソ相談してんじゃねぇ!!」

ちゅん!

考え事をしていたせいでオレは反応が一瞬遅れる!

「シュガーくん!!」

どん!オレを突き飛ばし自身も身を反らしてギリギリのとこで怪光線を避けるナイツ。

「何ぼーっと突っ立ってんですかっ!」

「もう怪我人がでるのはごめんだぞ。」

口々に抗議する二人。

「ごめん!いや!それより・・・!」

ごにょごにょごにょ・・・・

ナイツとライアにある考えを耳打ちする。

「ふふーん。シュガーくんのわりには考えたじゃないですか?試してみる価値ありですね!」

「ふむ・・・わしは初めての試みだな。焦げたらすまん。」
 
焦げたらって・・いや。ゴメンで済む話じゃないんですけど。
オレの作戦は正直今まで試したことの無い、ぶっつけ本番の方法だ。
上手くいくかは運次第。だけど、試してみる価値はある!
 
「じゃあ、そういうわけで作戦開始ー!」
 
オレの号令と共に各自散らばる。
 
「な・・なんだ・・?」
 
てっきり、オレたちが一丸となって戦う思ったのだろう。ビスカは予想がはずれ、不審な声をあげる。
 
「一番!僕いっきまーす!」
 
最初に『ダークナイト』に攻撃をしかけたのはナイツ!
剣を構えつつ上手から『ダークナイト』に向ってダッシュする。
 
「氷よ走れ!『レイ』!」
 
キーワードの声と共に、ナイツは魔力のこもった手を自らの剣にあてる!
すると、剣はたちまち氷に覆われ、レイの力をまとった魔法剣となる。
 
「だから・・そんなことしたって同じだっつーの!」
 
ビスカは嘲笑し、迫り来るナイツを『ダークナイト』のパンチで迎え撃つ。
ナイツは『ダークナイト』から繰り出されるパンチを避けつつ、上からその拳を剣で斬りつける!
 
じょわ!!
 
水蒸気が発生する!
 
「ほらな!?同じだろ!」
 
あざ笑うビスカ。
しかし、ナイツはそんなビスカにかまわず、レイの魔法剣で何度も『ダークナイト』の腹を、兜を、腕を斬りつける!
 
がん!ぎぃん!がん!!
 
響き渡る金属音。

「無駄なことしてんじゃねえよっ!!」
 
たとえ効かない攻撃とはいえ、ひたすら斬りつけられるというのは気分のいいものではない。
ビスカは苛立ち、ナイツに向って怪光線を放つ。
ナイツはもう一度その腹にレイの魔法剣の一発を叩き込み、そのままの勢いで左に飛び、怪光線を避ける!
――と同時に現れるライアのホノオの球!
 
「なっ!?」
 
ナイツに気をとられて、ライアの詠唱にはまったく気がつかなかったらしい。
ビスカは驚きの声をあげる!
 
『ダークナイト』の腹にライアのホノオがぶち当たる!
 
どぐわぁああん!!
 
今度は蒸発させられずに、『ダークナイト』の腹でホノオは大爆発をおこす。
その腹の装甲にわずかだが亀裂が入る!
 
「な・・・なんで・・・・!?」

驚愕するビスカ。
 
さらに上手からナイツ、下手からオレ、正面からライアのホノオの魔法が『ダークナイト』に迫る!
 
「な・・!?く・・くそ!?」
 
ビスカは混乱していた。今までまったく効かなかったライアの魔法が突然『ダークナイト』にダメージを与えたのだ。
三方から同時にくるオレたちをまとめて撃退することは不可能。
じゃあ誰を無視し、誰を攻撃したらいいのか?ビスカは迷ったのだろう。
 
一瞬ためらいをみせたが、ビスカは決めたらしい。
さきほど自分にダメージを与えた、正面からくるライアの魔法を撃退することを。
狙いを定め、怪光線を発射する!
 
ちゅんっ!!
 
怪光線は直進してくる炎の球に当たり、霧散させる!
 
――はずだったが、今まで直進していたライアの炎の球は上方向へと起動を変化させた!
 
「な・・・何ーーっ!?」
 
狙いを定めたはずの怪光線はライアの炎の球の僅か下をかすめて外れてしまう!
 
慌てるビスカ!完全に計算が狂ったのだろう。
すぐ横にはナイツの剣が、そして反対側にはオレの剣――しかし!

「赤いやつは!?どこいった!?」

ビスカの予想を反して、オレはヤツの上空にいた。ライアの炎の球と共に!
 
「炎よ!魔力となりて剣と共に!」
 
ライアの声に応え、炎の球はオレの剣に吸収される!
 
『おっりゃああああ!!』


 


同時に響く、オレとナイツの気合の声!
 
『ダークナイト』の腹の亀裂の上から、ナイツの剣がさらに氷の軌跡を描くと共に、オレは真上から炎の力をまとった剣で渾身の一撃をお見舞いする!
 
ぞんっ!!


炎と氷。まったく逆の属性が同時に『ダークナイト』の装甲にヒットする!
 
ぴし・・・ぴししししぃいいい・・・・・!
 
縦と横。『ダークナイト』の装甲に十字の亀裂が走る!


 
『ホノオ!!』
『レイ!!!』
 
トドメは、ライアとナイツの同時魔法攻撃! 
 

ドグワァアアン!!
ビギィギーーン!!
 
 一度に強烈な温度差が『ダークナイト』を襲う!
 
 
ばきぃいいいいいん!!
 
ガラスが割れるような音をたて、『ダークナイト』は砕け散った!
 


『や・・・やったぁあああ!!』
 
同時に歓声をあげ、ハイタッチをするオレたち。
 
 
残ったのはボロボロになったビスカただ一人。もう反撃する力は残ってないだろう。
砕け散った『ダークナイト』の破片にまみれ、地面にはいつくばったまま、ビスカは何が起こったのかわからない顔をしていた。
 
「な・・・なんで・・・・?何しやがった・・!?」
 
「何したって・・結構単純なことなんだけど。」
 
オレは倒れたビスカに向っていう。
 
「えーーと・・。
ライアは『ダークナイト』は攻撃された属性と反対の属性を装甲の表面に発生させてるっていってたけど、それって簡単に言うと、炎の攻撃のときは体を冷たくして、逆に氷の攻撃のときは体を熱くしてるってことだろ?
だけど、さっきライアのホノオの魔法を受けた直後の『ダークナイト』を攻撃した時、オレの剣は霜がつくほど冷たくなってたんだ。その時思ったんだ。変だなーって。
オレは普通の剣で攻撃したわけだから、『ダークナイト』はオレの攻撃に対して反応するわけない。なのにオレの剣は冷たくなってる。
それって直前のライアのホノオの魔法に反応したままだったからなんじゃないかなーって。」
 
「だからなんだっていうんだ!」
 
イラついた声で吐き捨てるようにいうビスカ。
うーーむ・・。なんか上手く説明できない。
ていうかよく考えたらどうして敵に親切に説明しなきゃならないんだ・・?
そんな矛盾を感じるオレに代わって得意げに説明しだしたのはナイツ。

「要は『ダークナイト』の魔法防御には僅かにタイムラグがあったってことです。
いくら強力な兵器と言っても万能ではなかったみたいですね。ほぼタイムラグなしで反対の攻撃をされると得意の属性防御も間に合わなかったってとこですかね。」

おおー。分かりやすい。そうそう。オレはそれが言いたかったんだ。
 
「ち・・・!」
 
ビスカも納得したのか小さく舌打ちすると、それ以降は何も話さなかった。
 
「それにしても・・ホノオの魔法剣なんて試したこともない上に、炎の球を変化球で投げろなど、ホントに無理難題ばかりだったな・・。」
 
疲れた声で、そういったのはいつの間にオレたちの元へとやって来ていたライア。
確かに、今の作戦で一番無理させたのはライアかもしれない。
ナイツとは魔法剣の類は何度か試したことがあったけど、ライアとは初めてだった。
その場でナイツに即効で教わり、さらにオレから変化球の投げ方を教わったのだ。
よく成功したもんである。おそるべし!ライア!
 
オレは遠くの岩場でこちらの様子を見ていたクラウスさんに向って手を振る。
 
「おーい!クラウスさーん!オレたちやったよーー!」
 
クラウスさんはオレ達に向って笑顔で手をひらひらと振り返す。

 
「うーん。いいじゃん、いいじゃん。
さすが兄貴の・・・い、いや!さすがトレジャーハンターだね。ひよっこだけど。」

 
喜ぶオレたちを眺めつつ、クラウスさんがそんな呟きをもらしていたことはオレたちは知るよしもなかった。


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