■5■

 

 「ふはははは!!!
 トレジャーハンターのマキシムってのもたいしたことねぇなあ!
 この『ダークナイト』があればオレは無敵だ!」
 
ビスカの高笑いが洞窟内にこだまする。
 
「シュガー!!」
 
ライアもオレの元へ駆け寄ってくる。
 
「シュ・・シュガー・・・!
 ・・し・・しっかりしろ?
 今・・回復魔法を・・・。」
 
ライアは詠唱に入る。
 
「そ・・空と・・だだ・・・大地・・・つつ・・司りし・・
 あ・・あれ・・?あれ・・・!」
 
しかし・・声が震えて上手く出来ないらしい。
 
「くそ・・どうして・・!?こんなときに・・・!」
 
そういえば、エスト先生が言ってたな。魔法はイメージが大事だって。
精神が不安定なときとかは失敗することもあるぞって・・・。
 
「ど・・・どうしよう・・・。
 ナイツ・・・ナイツ・・・・!」
 
ライアは震える声でナイツにすがる。
 
「大丈夫!ぼ・・・僕がやってみます・・!」

深呼吸し、ナイツは詠唱に入る。
しかし!――
 


「させねーよっ!!」

 
どかっ!!!
 


いつの間にか立ち上がった『ダークナイト』の大きな手が、ナイツをなぎ払う!
 
「ぐああ!」
 
そのまま吹き飛ばされ、ナイツは壁に叩き付けれられる。
 
「てめぇ、回復魔法が使えるのか。」
  
『ダークナイト』は倒れたナイツに近づく。
 
「く・・・っ!」
 
受けたダメージは小さいものではないらしい。
すぐに起き上がることが出来ず、やっとのことで四つんばいの状態となる。
そんなナイツに『ダークナイト』は右手のこぶしを振り上げ
 
「そういうやつは真っ先にやるのが鉄則ってもんだよなぁ?」
 
 
どかっ!
 

『ダークナイト』の大きなこぶしによって再び地面に叩きつけられる! 
 
「ナイツ!!」
 
ライアの声にナイツは僅かに体を動かすが、今度は立ち上がる気配はまったくない。

「あーっはっは!
 まあ、あとは雑魚みたいなもんだけど・・。
 最後まで楽しませてもらうぜ?
 そこのエルフのお嬢ちゃんはマニアに高く売れそうだからな。
 なるべく傷をつけないようにしないとな・・。」
 
一歩一歩。
追い詰められたオレたちをもてあそぶように。
やけにゆっくりとした足取りで近づいてくる。
 
「来るなっ!!」

ライアはオレをぎゅっと抱きしめ、槍を構える。
ライアの心臓の鼓動は早くなり、少し震えているのがわかった。
ああ・・。守ってやんなきゃいけないのに・・・。
 
「威勢がいいねぇ。だけど、その槍で何しようってんだ?」
 
ビスカは笑いながら突き出すライアの槍を『ダークナイト』の手で突く。
 
「くそっ・・・!来るなっ!来るなっ!!」
 
ライアはオレをかばいつつ、何度も槍を突き出す、しかし、その攻撃は『ダークナイト』の装甲に傷一つつかない。
むなしい金属音があたりに響く。
 
「一発で楽にしてやるよ。
 キレイなオブジェにして金持ちに売ってやるぜ?」
 
『ダークナイト』の目が光る。
 
 
びくりと、オレを支えるライアの手に力が入ったその時――
 
 


「二人から・・・離れろ・・・!!」

 

 
――力強い声が、『ダークナイト』の動きを静止させる。
 
 
「はあ?」
 
ビスカはその声に振り返る。
 
見れば先ほど倒されたナイツが剣を支えに立ち上がろうとしていた。
剣を持っていないほうの手には淡い癒しの光が見える。
 


「なんだ。意外としぶといな。
 で?自分に回復魔法かけて立ち上がったのはいいけどよ。
 そんなによろよろして、何する気だ?おぼっちゃん。」
 
完全にバカにした口調で笑うビスカ。
 
「シュガーくんが頑張れないときは・・・僕が・・頑張らないといけないんです・・・!」
 
回復魔法をかけたとはいえ、先ほどの『ダークナイト』の一撃のダメージが相当残っているらしい。何度も前に倒れそうになりながらも、一歩一歩、ナイツは剣を構えてこちらに歩いてくる。
 
「僕が・・・二人を・・・
 シュガーくんと・・ライアちゃんを守るんですっ・・・・!」
 
ナイツはキッとビスカを睨みつける。
 
「かっこつけてんじゃねーよっ!!!」
 
『ダークナイト』の怪光線がナイツに向かって放たれる!
 
ナイツは大きく右に避け、そのままビスカにむかって突っ込んでくる!
 
「ばーか。すぐに二発目が撃てるっての!」
 
ビスカがにやりと笑い、『ダークナイト』の目が光る!
その瞬間、ナイツはその手に持っていた剣を『ダークナイト』の兜めがけて投げつける!
 
「だから。そんなの『ダークナイト』には傷ひとつ・・・!?」
 
いいかけて、あわててビスカは剣をよける。怪光線は明後日の方向にむかって放たれる。
 
「てめえ!覗き穴を狙いやがったな!?」
 
『ダークナイト』の僅かな隙間。操縦しているビスカが見ている覗き穴からビスカ自身を狙ったのだ。
 
ナイツはビスカの問いに答えない。その代わりに
 
 
「氷よ走れ!レイ!!」
 
詠唱済みの魔法を解き放つ!
 
「魔法は効かねえって言ってんだろ!」
 
迫り来る氷の矢など気にせず、ビスカはナイツに向かって怪光線を立て続けに放つ!
 
しかし、ナイツの放ったレイの魔法は『ダークナイト』の装甲ではなく、その足元の地面に次々とヒットする。
 
「なんだ・・・?」
 
ビスカが不審な声をあげる。
気がつけば、氷の矢が『ダークナイト』の周りをぐるりと囲んだ状態となっていた。
 
 
「清らかなる水。『ミューズ』!」
 
 
ざぱーーーーー!!!
 

 ナイツのキーワードの声とともに、『ダークナイト』の頭上から大量の水が降り注がれる!召喚された水は『レイ』の氷の矢にふれるとたちまち凍りき、あっという間に『ダークナイト』の下半身は厚い氷の中に込められ、兜だけが出ている状態となる。
 
「な・・なんで!?魔法は効かないはずなのに・・!!」
 
ビスカは驚く。
 
「そうか・・!」
 
その時、オレを抱えていたライアが何かに気がついたらしい。
 
「魔法が効かなかったんじゃない・・!打ち消していたんだ。
おそらく『ダークナイト』は装甲に魔法が触れた瞬間、その属性と反対の属性の魔法を自動的に装甲の表面にに発動させ、打ち消していたんだ。
だけど・・それはあくまで『装甲にふれた時』のみ・・!
確かに最初はあの氷の壁も解かされてしまっただろう。
だが、その装甲にふれない部分は攻撃されていると『ダークナイト』は判断できない!
だから、氷の牢は溶かされなかったんだ!」


「だったら!この氷の牢にぶつかって溶かしてやるだけよ!」

 
ビスカは氷の牢から無理やりでようと、『ダークナイト』を前進させる。
 
 
じょわっ!じょわっ!
 
再び激しい蒸気が吹きだす!
 
 
 
「それも計算済みです!」
 
そう声をあげ、ナイツは先ほどビスカに投げつけた剣を取る。
 
「その氷が解ける前に、覗き穴からあなたを攻撃すればいいだけのこと!」

ナイツは『ダークナイト』の背後をめがけて、激しい水蒸気の中に突っ込んでいく!
 『ダークナイト』を閉ざしている氷の牢はまだ半分も解けていない!

ナイツの剣が、兜めがけて突き出された瞬間!――
 
 
 
 
「甘いよっ!!!」
 

 
どぐっ!!!

 
『ダークナイト』のアイガードから抜け出てきたビスカ本人が、ナイツのみぞおちにカウンターで蹴りを入れていた。

 
「ぐ・・・っ!はああ・・・ああ。」
 


吹き飛ばされ、地面に転がるナイツ。
もともとかなりのスピードで突っ込んでいたのだ。自身のスピードも加わり、ナイツが受けたダメージは計り知れない。
 
「惜しかったなぁ・・。
まさか、てめえみたいなぼっちゃんがこんなにやるとは思わなかったぜ?」
 
ビスカは生身でナイツの前に降り立つ。
ナイツは咳き込みながら必死に立ち上がろうとするものの、ただもがいているだけとなってしまう。
 
「ふざけんなよっ!?
 てめえらみたいなガキがオレ様にたてつくんじゃねえ!!」
 


どかっ!

 
「うあっ!!」
 
ビスカは動けないナイツの脇腹を蹴り飛ばす。
 
「マジでぶっ殺すぞ・・・?お前ら・・・・・!」
 
ビスカは完全にキレていた。腰の短剣を抜き、ナイツにむかって振り上げる。
 
 
「ナイツ!!!」
 
ライアが長槍を持ち、ビスカに向かって飛びかかろうとした刹那―
 
 
 
「あーら。だけどそのガキ相手にマジになってるあんたは最高にダサいんですけど。」



緊張で張り詰めた洞窟内に、場違いなおチャラけた声が響く。
声のしたほうに一同の視線が集まる。


そこには頭から黒いローブすっぽりと被った人影。


「シュガーちゃん、お疲れ様。」


軽く挨拶するようにそういうと、頭のフードをばさりとおろす。
現れたのは片側だけ三つ編みした変な髪形。そして緑の髪。

「そこで倒れてるのは探してたシュガーちゃんのお友達?
 私ってばタイミングばっちり!
 まるで正義のヒーローみたいじゃない?」

何が正義のヒーローだよ。

姿を現したのは今回の厄介ごとの張本人。
超一流のトレジャーハンターことクラウス・ゼファーだった。 

 

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