■4■

 

しゅごー。しゅごー。
 
 
正体不明の何かが土煙を裂いて飛び出してきた。
 
がしょこーん。がしゃこーん
 
そして・・金属の足音を立てながら、オレたちの元へゆっくりと近づいてくる。

「こ・・・これは・・・・」

その姿に、オレは思わず息を呑む・・ 

現れたのは黒い・・・・鎧?


オレより頭一つ、二つ分くらい大きな全身鎧(フルアーマー)――

・・らしき物体。


 いや、恐らく全身鎧(フルアーマー)だと思うが、はっきり言ってオレは今までこんな形は見たことがなかった。
 
「か・・・・・可愛い!!」
 
そう叫んだのは天然エルフ娘のライア。

え・・・・・あれは可愛いのか・・・?

 
俺たちの前に現れた『全身鎧』は、珍しい形だった。


というのも・・全身鎧をわざわざ二頭身にデフォルメしたような形で、そのままどこかのマスコットキャラにでもなれそうな感じなのだ。


しかしいったいどうやって入るんだ・・・?あの中・・・。
 
「シュガー!可愛いやつが出てきたぞ!?どういう構造で動いているのだろう!?わあ!調べたいなぁー!」


 


そんな時だけまるで女の子が服を選ぶようなテンションになるライア。
やっぱずれてる。やっぱずれてるよ、この子。
 
ライアの言葉に鎧が不適に笑った。
 
「ふっ!・・・ふははははは!可愛いだと!?コイツの恐ろしさを知ったら・・そんなことをいられねーぜ・・?」
 
 がしゃこんと鎧が兜のアイガードをあげる。
そこには金髪碧眼の青年の顔が。
 
「なんだ・・・人が入っているだけか・・・・。」
 
シュンとがっかりするライア。
いや、がっかりしなくていいから。普通に考えたら人が入ってるに決まってるだろうが。
 
「だ・・誰・・・あんた・・?」
 
オレの問いに金髪男はまたもや不適に笑う。
なんか若干ナルシストっぽい笑い方だなー。
 
「フフフフ・・!いいだろう!教えてやる!
 オレは『陸のシャーク!』大海賊ビスカ・ワンダーボウ様だ!」
 
「バカですか。サメは陸にいませんよ。」
 
オレの影に隠れてつっこむナイツ。
まあ。確かに。陸のサメとはセンスのない二つ名だよな。
 
「な・・・なんだと!?このビスカ様をバ、バカにするな!!!」
 
ナイツの突っ込みに思いっきりうろたえるビスカ。
 
・・・・・ってビスカ・・・・?
 
「ビスカって・・・!
 お前・・ここの海賊の頭のビスカ!?」
 
「いかにも!
 そういうてめぇは赤い髪・・青いバンダナ。
 貴様がトレジャーハンター・マキシム、『クラウス・ゼファー』だな?」
 
「へ・・・・・?」
 
オレの目が点になる。
 
「いや!オレはクラウスさんじゃないし!オレはシュガーっていう・・。」
 
「おいおい・・!
あの超一流のトレジャーハンターさんも、さすがにこのオレ様の前では怖気ついたって訳かい?」
 
「いや・・そーじゃなくて。オレはクラウスさんじゃ――」
 
「笑止!!こちとらてめぇの仲間だっていう黒いローブ女からタレこまれてんだよ。
赤髪、青バンダナの16歳くらいの少年に変装したクラウスがオレを捕まえに来たってなぁ!クラウスといえば変装の達人と聞く。なかなか上手く化けたもんじゃねぇか。」
 
「黒い・・ローブ女・・・・?」
 
オレの脳裏に最初会ったときのクラウスさんの顔がよぎる・・・!
 
「あんの・・・女装おやじ!!何考えてやがる!?」
 
「シュガー?心当たりがあるのか?」
 
怒りに声を荒げたオレに隣にいたライアが問う。
 
「ライアと会う前に一緒にいた人だよ!
 緑の髪で、女みたいな格好してるけど、れっきとした男!
 あの人のせいで海賊に追っかけらるハメになったんだ!
 しかも・・今度はオレを身代わりにしやがって!!ビスカを捕まえるんじゃなかったのかよ!」
 
「上手く利用されたな。シュガーは人がいいから。」
 
ため息交じりで言うライア。
 
くっそー。最初からオレを囮にするつもりで助けたってことか!?
じゃあアイツの本当の目的ってなんだったんだよ!
 
「ごちゃごちゃとうるさいやつだな・・・。
 ふ・・!まあいい。この魔導兵器『ダークナイト』の試運転とさせてもらうぞ!」
 
そういうと、ビスカは再びアイガードを下げる。
と同時に、兜に赤い目のようなもの光る!

 
嫌な予感がし、オレはとっさに隣にいたライアを抱えて後ろに飛ぶ!
 
ちゅん!!
 
今までオレたちがいた場所に怪光線が放たれた!
地面に穴が開き、土が焦げたのか、小さな煙が昇る。
 
ひえーー!
 
「ひっどーい!シュガーくん!!!
 なんでライアちゃんしか助けないんですかーー!」
 
ナイツも間髪で避けられたらしい。オレたちと少し離れた場所から抗議の声をあげる。
うるさい。オレよりデカイ図体のやつなんか抱えて飛べるか!
 
「ふはははは!!!どうだ!!恐ろしいだろう!!
 これが『魔導兵器』の力だ!!」
 
確かにこいつはやっかいだ。
放たれる怪光線のスピードは速く、避けるのに精一杯で攻撃を仕掛ける途中などに放たれたらアウトだ。
 
「確かに・・恐ろしいな『あしみじか鎧さん』の力は・・・」
 
オレの小脇に抱えられたままのライアが真剣な顔でつぶやく。
・・・・ところで『あしみじか鎧さん』ってなに・・・・?

「こら!そこの女!!『あしみじか鎧さん』ではないっ!『ダークナイト』だっ!!」
 
ライアの言葉に思わず突っ込むビスカ。
 
「そうか?どうも『ダークナイト』という名前は似合わない気がするのだが・・・。
 どちらかというとその風貌は『あしみじか鎧さん』だな。
 ちなみにアイディアの元はかの有名な『あしながおじさん』からだが。」
 
いたってマジメに答えるライア。
いや・・・あの・・ただの悪口みたくなってるし・・!!
ていうかあしながおじさんにも失礼だよっ!
まあ・・確かに異様に短い手足と二頭身キャラからは「ダークナイト」っていうイメージはわかないけど・・
 
「おのれ・・・!バカにしやがって・・・!『ダークナイト』の恐ろしさを味わうがいい!!」
 
ちゅん!ちゅん!ちゅん!
 
怒りをあらわにしたビスカは立て続けにオレとライアに向かって怪光線を放ってくる!
 
「うわっ!?わっわわ!!ったった!?」
 
ライアを抱えたまま紙一重で交わすオレ。
 
「ば、ばか!ライア!!挑発すんなよっ!」
 
「いや。挑発ではない。わしは本当にあれは・・・あしみじか・・むぐぐ!」
 
「あーもういい!!」
 
なおも『あしみじか鎧さん』といわんとするライアの口をオレはあわててふさぐ。
 
その時――

「氷よ走れ!『レイ』!!」
 
ノーマークだったナイツが魔法の詠唱を終え、水系氷魔法『レイ』を放つ!
 
「油断しましたね!ここに主人公がいるということを忘れてもらっちゃあ困りますね!」
 
前髪をかきあげ、ビスカをびしいと指差して言うナイツ。

よくあんなキザな台詞を真顔で言えるもんだ・・・。
オレはやつのナルシストぶりに少々あきれたが・・まあ、それはいいとしてよくやったナイツ!
ナイツの手から解き放たれた氷の塊は鋭い矢のようになり、ビスカを覆う『ダークナイト』に突き刺さる!
よっし!これで氷漬けに――
 
じょわっ!!!
 
しかし・・氷の矢がダークナイトの表面に突き刺さったかに見えた直後、激しい蒸気とともに氷の矢は消失する!
 
「え・・!?」
 
驚愕の声をあげるナイツ。
 
「ふははははは!!魔法など、この『ダークナイト』の前では無力だ!!」
 
高笑いをあげるビスカ。
 
どういうことだ・・?魔法を無効化なんてそんな簡単に出来るもんなのか・・・?
 
「ならば!」
 
オレに抱えられたままのライアが魔法の詠唱にはいる。
 
「ムダだと言っているだろう!」
 
それに気がついたビスカはオレたちめがけて怪光線を放つ!
 
「わわわわあ!?」
 
あわててダッシュし、オレは避ける!
ほどなくして、ライアの魔法が完成した!
同時にオレはビスカのほうへ向き直る!
 
「火よ走れ!『ホノオ』!!」
 
オレに抱えられたままのライアの手に炎の弾が生まれ、ビスカに投げつける!
 
が・・・・
 
じょわっ!!!
 
またもや『ダークナイト』にヒットする前に掻き消えてしまう・・!
 
「シュガーくん!どうやら魔法はダメみたいです!剣で戦いましょう!」
 
剣をぬきつつオレの元へやってくるナイツ。
 
「そんなこと言ったって・・!
 あんな早い怪光線、避けながら攻撃するのは厳しいぞ!?」
 
「ええ!まずはあの怪光線を何とか封じなければいけませんね・・・!」
 
「どうやって!?」
 
「さあ・・・?」
 
「さあって・・・・!」
 
ちゅん!
 
言い合いをしているオレたちにむかってまたもや怪光線が放たれ、オレとナイツは左右に避ける!
 
「はははは!!避けろ避けろ!!そうやって逃げ回って力尽きたときがお前らの最後だ!」
 
ああ!クソ!やっぱ速い!!!
 
「シュガーわしを下におろせ。」
 
「へ?」
 
きょとんとするオレにライアは声を荒げ
 
「早くしろ!考えがあるのだ!」
 
「あ・・ああ。」
 
ライアに急かされ、オレは彼女を下におろす。 
ライアの力を信じてないわけじゃないけど、正直、スピードだったらオレのほうが速い。
万が一あんなのに当たったら痛いで済まされる話じゃない。

「考えって・・どうするんですか?」
 
ナイツの問いにライアはビスカを見据えたまま
 
「魔法が効かぬなら武器で戦うだけだ。」
 
武器で戦うだけって・・・
オレは慌ててライアに反論する。
 
「いや・・!だけどあの怪光線は攻撃しながら避けられるものじゃ・・・。」
 
「まあ。まかせておけ。」
 
そういうと、ライアは背中のあたりから片手に収まる棒上のものを取り出す。
軽く振ると棒は瞬時に長くなり、ライア愛用のロングスピアとなる。
 
「ライアちゃん!」
 
「おい・・!ちょっと待てって・・!」
 
しかし、ライアはオレたちの言葉に耳をかさず

「いくぞ!!」
 
気合と共に『ダークナイト』に向って走り出す!
 
って・・いきなり突っ込むか!?
 
「はあああ!!」
 
「ふっ!飛んで火にいるなんとやら・・・てか?」

ビスカがにやりと笑い、正面から向ってくるライアに向って怪光線を放つ!
 
「ライア!!」
「ライアちゃん!!」
 
同時にオレとナイツがライアの名を叫んだ瞬間――
 
 
「なにっ!?」
 
ビスカが驚愕の声をあげる!

見れば、ライアはすでに上空にいた。
 ロングスピアを使って上へと高くジャンプしていたのだ!
 
ライアはそのままビスカの背後に着地し、振り向きざまにロングスピアでなぎ払う!
 
ガゴキィイイーーーーン!!!
 
ライアのスピアは短い『ダークナイト』の足に直撃!
えらく重たい金属音が洞窟内に響く。

「あ・・・あ!!くそっ!!」
 
ビスカが焦りの声をあげる。
バランスを崩された『ダークナイト』は短い手をバタバタさせ、懸命に体勢を立て直そうとするが、その背をさらにライアのスピアがこずく。
 
「倒れろ。」
 
コン。
 
さして力を入れていない一発だったが、すでにバランスを崩していた『ダークナイト』には十分だった。
 
どーーーーん!
 
派手な地響きと共に前のめりに地面に倒れる。

なるほど!
確かにヤツの目から放たれる怪光線のスピードは速いけど、『ダークナイト』本体の機動力自体はかなり鈍い。しかも手足の短い『ダークナイト』は自分の力で簡単に起き上がることは出来ないし、目が地面に向いているせいで、オレたちに怪光線を撃つことが出来ない!
頭良いなぁ!ライアー!
 
「シュガー!ナイツ!トドメだ!!」
 
「え・・!?ああ!!おう!」
「わかりました!」
 
ライアに促され、剣を抜き、オレとナイツは裂ぱくの気合と共に地面でじたばたしている『ダークナイト』にむかって剣を振り下ろす!
 
「悪いな!!」
 
短い手足のせいでなかなか立ち上がることの出来ない『ダークナイト』はまったく反撃できない!
ちょっと可哀想な気もするけど、そんなことを言ってる場合じゃない!
 
オレとナイツの渾身の一撃は『ダークナイト』に直撃する!・・・・が
 
 
ゴイィイイーーーン!
 
またもや硬い金属音が洞窟内に響き渡る・・。
 
『か・・・硬ーーーーーーーーー!?』
 
同時にハモるオレとナイツ。
 
オレとナイツの剣は確かに『ダークナイト』の装甲に直撃した・・。
しかし、その表面には傷一つついていない。
 
「ちょっと!これどーしろっていうんですか!シュガーくん!」
 
ナイツが焦り声をあげる。
 
「オレに言うな!」
 
「そこをどうにかするのがシュガーくんのお仕事でしょうが!」
 
「なんでオレの仕事なんだよ!?」
 
「僕は魔法担当。君は剣担当。剣の攻撃に関する責任はすべてシュガーくんにあるのです!」
 
「アホか!」
 
相変わらずむちゃくちゃ言うやつ。
そんなアホなやりとりをしていたオレたちは、やつの動きに気がつかなかった。
 
「シュガー!ナイツ!!」
 
ライアの悲鳴に近い声が聞こえ、反射的にオレはビスカのほうに目を向けた。
まるでスローモーションのように、ヤツの頭だけがオレとナイツの方に傾き、その目が光る・・・・!
 
 
何も考えられなかった。
 
「ナイツ!!」
 
オレは本能のままにナイツを突き飛ばし、そして――


ちゅんっ!!


 


胸のあたりにやけつくような痛みが走り、オレは何かに叩きつけられる。
視界に入るのは冷たい岩肌。
 
布の燃える、焦げ臭いニオイ。

 
「シュ・・・シュガーくん!!!!」
 
ナイツが悲痛な声をあげながら、オレに駆け寄る。
 
 
「シュガーくん!!シュガーくん!!」
 
何だこいつ。涙目になってやんの。
 
「ふははっは!!クラウス・ゼファー!油断したな!!」
 
ビスカが勝利の雄たけびをあげる。
 
ああ・・そっか・・オレ・・倒れてるのか・・
近距離からビスカの怪光線に貫かれたらしい。
 
オレの名を叫ぶナイツの声と、駆け寄るライアの足音。
 

 


撃たれた右胸は痛みでどんどんと温度を増していった。 

 

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