■3■

 

どーん!!!
ちゅどーーーーん!!

 
「待てぇええ!!ガキーーーーー!!!」
 
完全に頭に血が上っている海賊たちは容赦なく爆弾やら岩やらをオレに投げつける!
 
「し・・・死ぬぅうーーー!!」
 
オレは必死によけながら走り続ける!
アジトの中は洞窟を改造して作ったらしく、やたらと入り組んでいる。
くっそー完璧に迷った!!!
これじゃライアたちを探すどころじゃないぞ!
はっきりいってその前にオレが力尽きる自信がある!
 
その時。
 
「ん・・?」
 
不意に――そんなことを考えていたオレの耳に、微かにこことは違うどこか別の場所から爆音が聞こえた気がした。
 
気のせいか・・?
 
それとも後ろの海賊たちの投げる爆弾が反響して聞こえているのだろうか?
 
ドーン・・・!
  
いや違う!明らかに、別のタイミングで聞こえている。
ということはクラウスさんがどこかで戦ってるのか?

どうするか・・。
もしクラウスさんだったとしても、
ビスカとかいう海賊のお頭との戦闘真っ最中だった場合、
オレがこんな大勢の部下を引き連れて乱入したらよけいややこしいことになるし迷惑に・・・
 
ん・・・?


よく考えたらこの海賊達って
もとはといえばクラウスさんへの逆恨みでオレを追い掛け回してるんだよな?
 
決断。
合流することに決定!
 
あの女装おやぢにこいつらまとめて押し付けてやるっ!!


 
オレはかすかに聞こえる爆音のほうに向かうことにした。
 
どーーーん!!
 
だんだん大きくなる爆音。
 
あと少し・・!
お願い神様!どうかクラウスさんであってくれ・・!
新たな敵とかホントに嫌だ。
 
 
どーーーんん!!!
 
すぐ近く。丁度この壁の向こう側から聞こえた!
ならば!!
 
オレは壁を背にすると、海賊たちに向かって大声で叫ぶ
 
「やーいやーい!ノロマのおやぢ〜!
 お前らなんかに捕まらないよーん♪」
 
「な・ん・だ・だ・とぉおおおおお!???」
 
殺気立つ海賊たち・・!
こ・・・こわーーーー。。
 
海賊たちはいっせいに爆弾をオレに向かって投げつける!
今だっ!!
 
オレは思いっきり右に飛び、身を伏せる。
 
どがあああああんん!!!
 
激しい爆音とともに、崩れ落ちる岩壁。
 
ガラガラ・・・・
 
土煙の向こうに見える人影。
影はごほごほとむせつつ、こちら側にやってきた。
 
「けほっけほ・・・な・・なんだ!?いきなり・・・?」
 
現れたのはクラウスさんではなく・・
 
「ライア!!!」
 
紫髪にオレンジのローブのエルフの女の子。
見慣れた、幼馴染のライアだった。
 
「シュガー!どうしてここに!?」
 
ライアは驚きつつも、嬉しそうにオレの元へとやってくる。

「どうしてって・・助けに来たに決まってんじゃないか!」
 
オレはライアの頭をぽんぽんと撫でる。
よかった。別に怪我とかはしてなさそうだ。
 
「そうか。それは迷惑かけたな。すまない。」
 
ライアは謝りつつも、くすぐったそうに笑う。
あれ?そういえばナイツの姿が見えないけど・・
 
「ナイツは一緒じゃないのか?」
 
「それが・・気がついたらわし一人でな。
 牢のようなところに閉じ込められていたのだが突破したきたのだ。」
 
突破って・・・
牢って突破できるもんなのか・・・?
 
「そういうシュガーは今までどうしてたのだ?」
 
「オレは・・。」
 
ライアに問われて、はたと気がつく。
 
あれ・・。
今ってそんなのんびりしている状態じゃなかったよーな・・・?
 
「もういいかい。お二人さん。
 優しい俺たちもこれだけ無視されちゃぁ黙ってらんないぜ?」
 
ずらりと並ぶ、海賊たち。
海賊さん・・・待っててくれたのね。
 
ライアは今の今までまったく海賊たちの存在に気がついていなかったのか

「なんだ貴様らは!!」 

そう海賊たちに向かって一喝すると、彼らの姿をまじまじと見つめ・・
 
「・・・その風貌、雰囲気・・・貴様ら・・
 すごく悪そうなやつらだな!!」
 
びしいと指差し、実に直球な感想を口に出すライア。
いや、間違ってないけどさ。
 
「なんだぁ!?海賊様をなめてんじゃねぇぞ!このアマ!!」
 
当然のことながら、怒る海賊たち。
ライアは海賊という言葉に驚き、
 
「何!?どうしてここに海賊が!?
 シュガー、もしやこいつらに追われてるのか?」
 
「うん。まあ・・。
 ていうかここ、海賊のアジトだから。」
 
「な・・・なんだと!?いつの間に!?」
 
オレの言葉にライアはまたまた驚く。
いや、いつの間にってドラゴンに連れてこられたんだろーが。
もしかしてコイツ・・
ここがどこか解らずにとりあえずあちこち彷徨っていたのか・・?
 
「むぅ・・。それではわしらは海賊のアジトの中心部にいるというわけだな?
 なるほど・・道理で構造が入り組んでいるわけだ。」
 
「うん。」
 
ようやく事態を飲み込めたらしい。
ライアのマイペースぶりに調子を崩されていた海賊たちだったが、
 
「や・・野郎ども!やっちまえ!!」
 
よくある台詞を吐きつつ、海賊たちは思い思いの武器を手に再び襲い掛かってくる!
 
ふっ!さっきまでは一人だったけど、今度はライアがいるんだ!
力をあわせれば何とか・・・!
オレはさっと剣を構え、襲い掛かる海賊を迎え撃とうとするが、その前にライアが一歩踏み出す。

なにやら詠唱しつつしゃがみこみ、そして地面に手を置く。
 
「稲妻よ走れ!『ライ』!!」
 
ライアのキーワードの声とともに、手から放たれた稲妻は地面を伝い、一瞬にして海賊たちを飲み込む!
 
どぱぱぱぱぱぱ!!!
 
激しい感電音が当たりに響く!
 
ばたばたと倒れる海賊たち。
 
って・・・またオレの出番・・・・
いや、いいんですけど。
 
海賊の数は20はいたというのに、あっさりと魔法の一撃で倒してしまった。
いいよなぁー。便利だよな、魔法って。
まあ、その分扱いが難しいし、特に攻撃魔法なんて制御を失敗すれば自分もタダじゃすまない難しい技だ。
いつも傍にいる二人があっさり使うからついつい忘れがちだけど。
 
オレは特に使うこともなかった剣を鞘に収め
 
「海賊もいなくなったことだし、さっさとこんな物騒なところは出ちまおうぜ。」
 
「ああ。そうだな。」
 
そういうと、ライアは立ち上がり、パンパンと手を叩きつつオレのほうへ向き直る。
 
「それで、出口はどこのあるのだ?
 シュガーは外からここへ入ってきたのだろう?」
 
「あー。確か・・・」
 
問われてオレは答えようとするが・・・
 
・・・ん・・?
 
しかしその先の言葉が続かない。
そうだ。
よく考えたらここまでがむしゃらに走ってきて道順など覚えていなかったりする・・・。
 
「あはは・・・!わかんなくなっちゃった。」
 
笑って誤魔化すオレに、ライアはため息をつき
 
「まあ・・そんなことだろうとは思ったが・・
 では仕方ないな。」
 
ライアは再び詠唱にはいる。
 
「ホノオ!」
 
キーワードとともにライアの手のひらに炎の玉が生まれ、
彼女はそれを手近な壁にぶつける!
 
どがーーーん!!
 
盛大な音ともに壁は崩れ去る。
 
「よし!こうして手当たり次第壁を壊して前に進むしかないな。」
 
ライアはそういうと、崩した壁を通り抜ける。
って・・今の音・・さっき聞いたような・・・?
嫌な予感がし、オレは彼女に恐る恐る尋ねる。
 
「もしかして・・今までこうやって壁壊しながら出口探してたのか?」
 
「うん。」
 
いともあっさりと彼女はうなずく。
うん・・って、おい・・・!
 
「あのさ。ここが海賊のアジトだからよかったけど、
 もし全然悪くない人の土地だったらどーするつもりだったんだ・・・?」
 
オレの至極真っ当なツッコミに彼女は
 
「・・・・・・・・・。しまった・・・・。」
 
どうやら何も考えていなかったようである。
 
マジメ人間の彼女にとって、犯したミスの精神的ダメージは大きかったようである。
一筋の汗を流し、その場にガクリとうずくまり落ち込む。
 
まあ・・ライアも今まで学校の中でしか生活してなかったし、
こういった事態にはあまりなれていない。
いきなり見知らぬ場所に閉じ込められて混乱したんだろう。
そういえばライアは結構マニュアル人間だったっけ。
魔法も教えてもらったとおりの使い方しかしないし、アドリブに弱い。
 
その点ナイツなんかはあいつ独自の発想でいろいろ突拍子もない使い方することが多い。
目立ちたがり屋のアイツのことだ。人と同じことをするのがイヤなんだろう。
オレにはタダの迷惑魔法にしか思えないけど、そういうところはライアもエスト先生も高く評価してたりするんだよな。


ちなみに、ナイツの提案で『レイ』っていう氷魔法とオレの剣技を合体させた技があるのだが、確かにあれはこの前初めて実戦で使った時に意外と使えるなぁとは思ったが。
練習のときはひたすらオレを氷付けにして嫌がらせとしか思えなかったけど・・!
 
・・ん・・・・?ナイツ・・・?
 
「あー!そういえばナイツのこと忘れてたっ!」
 
「はっ!?そういえば!」
 
オレのあげた声に、ライアも落ち込みモードを解除して立ち上がる。
あぶないあぶない。危うくこのまま二人で立ち去るところだったぜ・・!
 
「やっぱ一応あいつも見つけてやらなきゃマズイ・・・よな?」
 
なんか、ナイツだったら放っておいても勝手に追いつきそうな気がするけど・・
 
「当たり前だろう。おそらく、わしといっしょにここに連れて来られたはずだ。
 今倒した海賊がすべてとは思えんし。はやく探してやらねば。」
 
だよ・・・な。
まあ一応あんなやつでも付き合い長いし、探してやらないと寝覚めが悪いか。
 
「よっし。じゃあとりあえず探すか。
 あ。言っとくけど、もう魔法で壁壊すのは禁止な。
 その音を聞きつけてまた敵さんが現れたら困るし。」
 
「わかった。」
 
オレの言葉にうなずくライア。
 
ナイツ、お前のことだ。
おそらく生きてるんだろうけど、無事ていてくれよ。
あと、出来ればわかりやすいところにいてくれ。
間違ってもやっかいなモンスターとかに襲われてるんじゃないぞ!
 
そう心で願いつつ、オレとライアは洞窟の中を捜索するのであった。

 

* * * * *

 

「うわ・・・。また行き止まりだ・・・。」
 
ライアと合流して一時間ほど、オレたちは海賊のアジト内を彷徨っていた。
目的ははぐれたナイツを探すことと出口を見つけること。
残念ながら未だ両方とも達成できていないが・・。
 
歩き出してからもう何度目だろう。
こうやって行き止まりにぶち当たり、また引き返すのは・・。
 
オレは疲れたため息をつく
 
「ったく・・・どーなってるんだよ。このアジトは・・。
 ここに住んでるやつらは迷わないのか!?こんな構造で・・!」
 
いい加減オレも疲れてきた・・。
そういや今日は朝から走りっぱなしの歩きっぱなしだ・・・。
飲まず食わずで、これじゃいつ倒れたっておかしくないよなぁ。
 
「おそらく生活圏は違う場所なんだろう。」
 
そんなオレとは対照的にいつもとかわらず冷静にさらりというライア。
 
「せいかつけん〜?」
 
ああ。頭が回らない・・。
もともと考えるのは得意じゃないけど今日は余計に何も考えられないぜ・・。
オレはライアの言葉を特に考えずにそのまま聞き返す。
 
「うん。
 以前エスト先生の授業で、砦の構造は外敵の進入にそなえて
 わざと入り組んだ迷路のようなものをつくると聞いた。
 ただ、それだと普段不便なので抜け道のようなものを作るらしいが・・・。」
 
そんな授業あったけ・・・?
オレは記憶を呼び起こそうとするが・・
・・ダメだ。疲れすぎて集中できん。
もとよりそんな授業聞いてたかどうかもわかんないし・・。
 
「へー。で・・・?どこにあるの?その抜け道って・・。」
 
「そんなことわしが知るわけないだろうが。
 今日初めて来たわしが知ってたら抜け道にならん。」
 
「あはは。そりゃそーだ。」
 
我ながら元気のない笑い声だ。
 
「シュガー。」
 
「ん・・?」
 
「どうした?元気がないぞ?」
 
「まあ・・今日いろいろあったから・・。」
 
ホント、色々あったよなぁ・・。
全力疾走のマラソンやらされるわ、ドラゴンにさらわれるわ、変な女装おやじと出会うわ、トドメに海賊の団体さんに追い掛け回されるわ・・・。
はあ・・地図をさかさまに読まなけりゃこんなことにならなかったのになぁ・・。
 
ふたたびため息をつくオレの前にふと小さな可愛い妖精が現れる。
 
ああ・・。オレも来るところまできたか・・・とうとう幻まで見えてくるとは・・
妖精はやさしく微笑み、オレの周りをくるくると飛び回る。
あー。可愛いなぁ・・。
その軌跡は風となり、オレは心地よい風に包まれる。
 
あれ・・・?これって・・・・?
 
「少しは元気になったか?」
 
そうかけられたライアの声に振り向くと、
彼女の肩に先ほどの妖精がちょこんと座っていた。


 


「ありがとう。帰っていいぞ。」
 
ライアがそういうと、妖精はフッと姿を消す。
 
「今のって・・・。」
 
「フェアリーを呼んで回復してもらったんだ。」
 
そういえば随分と体が軽いような・・。
きょとんとしているオレに、ライアは心配そうな顔をして覗き込んでくる。
 
「どうした?元気にならないか・・?」
 
ああ、そうか・・。
どうやらオレは回復魔法をかけられるほど元気がなかったみたいだ。
 
「あはは!元気元気!ライアの魔法で元気になったみたい!」
 
「そうか!ならよかった。」
 
オレの答えにライアは嬉しそうに笑う。
 
よっし!こういうときこそ男がしっかりしなくちゃな!
男は女の子を守ってやるもんだってじーちゃんも言ってたし!
オレは気合を入れなおし、再度目の前の行き止まりの壁を見る。
 
「ったく。ライアじゃないけど、
 いい加減行き止まりだらけだと壁も壊したくなるよ・・っな!」
 
そういいながら、オレは目の前の壁に軽くパンチをする。
 
がこ
 
「ん・・・?」
 

さして力を入れたわけでもないのに、オレの拳があたった岩はそのまま後ろへ不自然にへこむ。
 
「まさか・・・・。」
 
オレは嫌な予感がする。
こういう展開って昔じーちゃんが読んでくれた冒険小説とかであったぞ・・!
そう・・こういう洞窟でうっかり隠されたスイッチとか押しちゃうと・・・
 
ばーん!!!
 
オレのいた足元が突然開く!!
 
「やっぱりぃいいいい!!」
 
絶叫とともに落下するオレ。
 
「シュガー!!」
 
ぱしっ!
 
落とし穴の下にいなかったライアは咄嗟にオレの手をつかみ、引き上げようとするが・・
 
「あっ!!」
 
体勢が悪かったらしく、ライアまでもが落とし穴に落ちてしまう。
当然浮遊の術なんか唱える余裕などはなく、暗闇の中を落ち続けるしかない!
 
オレはなんとか体勢を整え、着地にそなえる。
 
ほどなくして、足元に僅かな明かりが見えたかと思うと地面が現れる!
 
 
ぶぎゅる!!!
 
あれ?なんか踏んだよーな・・・?
 
って今はそんなことどうだっていい!
オレは後から落ちてくるライアを受け止めようと――
 
ぶぎゅる!!
 
――したが間に合わず、オレの顔面にライアは着地する。
 
「すまん・・・。」
 
そういうと、彼女はオレの上から降り立つ。
いいんですけどね・・別に・・。
オレは顔をさすりつつ、周りを見回す。
 
周りはごつごつとした岩だらけ。
やっぱり洞窟の中か・・・
 
あれ?
 
一瞬がっかりしたが、
よくよく見れば今までオレたちがいた場所よりずいぶんと広い空間らしい。
ちょっと離れた場所には池というには少々小さいが、水溜りのようなものがある。
少しは違う場所に出たんだろうか?
 
「なぁ・・シュガー・・なんかここ・・臭くないか・・・?」
 
ライアに言われ、オレは鼻をひくつかせる。
 
「確かに・・・。」
 
言われてみればぷーんと嫌なにおいがする。

ライアは鼻をおさえつつ怪訝な顔でオレを見ると
 
「シュガーの足元のそのぬちゃっとした物体から臭っているようなのだが・・」
 
言われて足元をみれば確かに。
なんかこう・・ぬちゃーっとした物体がある。
・・嫌な予感がするんですが・・・
・・ん?
だけどぬめぬめした見た目の割にはオレの足元はしっかりしてるような気が・・
 
その時―
 
「その声は・・・・・?」
 
聞き覚えのある声がオレの足元からしたかと思うと、突然オレの着地地点がぐらつく
 
「おっとっと・・・!」
 
体勢を崩しそうになったが、なんとか後ろにジャンプし着地する。
 
にちゃ・・
 
うげーー。
靴の下になんか嫌な感触が残る。
 
 オレたちの前のにちゃっとした臭い物体はもぞもぞしたかと思うと。
 
「シュガーくーん・・!ライアちゃぁあん・・・!」
 
中からヘドロの物体がオレたちの名前を呼びながら這いだして来た・・・!
 
「なななななんだぁ・・・!?」
 
「・・・!!!」
 
思わず後ずさりするオレたち。

「シュガーくーん!ライアちゃぁーん!会いたかったです〜〜!!」
 
謎のヘドロ物体はがばぁっと手(?)を広げオレたち・・いや、ライアに向かって突進してくる!
 
「い・・・いやぁあああ!!来るなぁああ!!」
 
げきょ!
 
ライアの放った回し蹴りが見事に謎のヘドロ物体を吹っ飛ばす!
物体はそのまま飛ばされ・・・
 
ばしゃーーん!!!
 
派手な水しぶきとともに、先ほどの水溜りの中に落下する。
 
「珍しいな。あーいうわけわかんない物体って好きじゃなかったのか?」
 
オレはとなりでプルプル震えているライアに声をかける。
ライアは子どもの頃から珍しいもの好きだ。
見慣れないものを見かけるとなんでも調べたがる悪い癖がある。
 
「いくら珍しくともあんな臭くて気持ち悪いものに抱き疲れるのはゴメンだ!」
 
まあ・・確かに。そりゃそーか。
 
しかし、さっきのヘドロ物体。なんでオレたちの名前を叫びながら突進してきたんだろうか。ていうか喋ってたな。あの物体・・・・
 
ん・・・・・?
 
「ちょっと待て!今の声ってもしかして・・・!」
 
オレはある予感がし、水溜りの前に駆け寄る。
 
「どうした?」
 
「いや・・さっきの声って、すんごーーーく聞き覚えがある気がしてさ・・。」
 
ライアもオレの隣にやってきて、二人そろって水面を見つめる。
 
ぶくぶくぶくぶく・・
 
水溜りから泡ぶくがったたかと思うと
 

ざばーーー!!!
 

 
「なにするんですかーーーっ!!」
 
水溜りの中から青髪長髪の青年が這い出てくる。

そう。オレの予想通り。
顔だけがとりえのイヤミ男!オレのもうひとりの幼馴染。
 
「やっぱりナイツだったかー!」
 
「やっぱりですって!?」
 
ナイツは顔面真っ赤にして鼻息荒くオレにつっかかってくる。
いや、この場合水溜りに蹴り飛ばしたのはライアなんだからオレが怒られるいわれはないわけだが。
 
「わかってたんだったら蹴り飛ばさないでくださいっ!」
 
「いや。蹴ったのオレじゃないし。」
 
そういうとオレは隣のライアを指差す。
 
「え・・ライアちゃん・・?」
 
ナイツの怒りのテンションはガクッと下がる。
こいつ。あのぬめぬめ物体で前が見えてなかったのか。
当のライアはペコリと頭を90度に下げ
 
「まったく気がつかなかった。すまん!」
 
なんとも潔いあやまりっぷり!
 
ナイツはオレとライアの顔を交互に見て口をぱくぱくとさせ、しばらくそのままもだえていたが・・やがて肩をがっくりと落とし

 「ま・・・・まあ・・・・ライアちゃんならしょうがないですけど・・・。」
 
やっぱり。
おそらく怒りを爆発させたかったが、それがライア対象では出来なかったといったところか。
あー。蹴飛ばさなくてよかった。オレだったら今頃どうなってたか。
 
「で?お前は今まで何してたんだよ?」
 
ガックリとうなだれているナイツにオレは声をかける。
 
「何って・・。君たちを探してたんですよ!
 まあ・・・正確にいうとさっき起きたばっかりですけど。」
 
「さっき起きたばっかり・・・?」
 
「ええ。気がついたらシュガーくんたちはいないし、ドラゴンもいないし、
 二人を探して歩き出したところにあのくさい物体をみつけて
 何だろうなぁって覗いてたらシュガーくんたちが上から降って来たんですよ。」
 
「・・・ってことは、お前ずっとここにいたのか?」
 
「そうですけど。悪いですか?」
 
ナイツはむすっとした顔で答える。
なんだよ・・。
じゃあオレが走り回ってる間にコイツはのん気に、気絶したままだったってことか!?
 
「じゃあ。お前はまったく今の状況がわかってないってことか。」
 
「まあ。そうですね。
 ったく・・服がびしょびしょですよ。
 このままじゃ風邪引いちゃいますね。」

そういうと、ナイツは立ち上がり辺りをきょろきょろと辺りを見回す。

うーーん。確かナイツはライアと一緒にドラゴンにつかまれてたはずだったけど何でこんなとこにいたんだ?
確か海賊たちは人売りもしてるって言ってたけど・・こいつは売り物にならんということで海賊たちにここに放置されたか、もしくは途中でドラゴンから落っこちたってことか?

オレがそんなことを考えているうちに、ナイツは何処からか草を持ってきて焚き火をはじめた。
 
「どっから持ってきたんだその草。」
 
「どっからって・・そこにいっぱいあるじゃないですか。」
 
ナイツは服を脱ぎつつ指を指す。
あ。ホントだ。薄暗くて気がつかなかったが、見ればすぐ近くにワラがたくさん積まれていた。まるででっかい寝床みたいだなぁ。
 
「あーもう。嫌なにおいがついちゃいましたよ・・。
 とれるかなぁ?
 ・・・へ・・・へ・・・へっくしょーーーい!!」
 
ぶつくさ文句を言いつつ、ナイツは上半身裸のまま服を広げ焚き火にあたる。
のん気なやつ・・。
ライアはというと、先ほどの謎のくさい物体の前にしゃがみこみ、なにやら調べているみたいだ。オレはライアの元へ歩き出す。
 
「何やってんだ?」
 
「うん・・。この物体がやはり気になってな。調べてみたんだが・・。」
 
やっぱり気になるのか。
 
「ライアも物好きだよなぁ。よくこんなくさい物体調べるよ。」
 
オレはあきれた声で言う。
 
「それで何かわかったの?」
 
「うん。」
 
彼女は立ち上がり、オレの顔をひたと見つめ
 
「これは・・・ドラゴンのフンだな。」
 
え゛・・・・・
 
その言葉を聞いて服を乾かしていたナイツが上半身裸のままダッシュでこちらにやってくる。
 
「今なんていいましたっ!?」
 
ライアの肩をつかもうとするが、彼女はするりとすり抜ける。
 
「フン。ドラゴンのフン。」
 
ライアはなるべくナイツの方を見ないようにして答える。
 
「フン・・・ドラゴン・・・?」
 
ナイツはその言葉にその場に白くなって固まる。
 
コイツ・・・さっき盛大にドラゴンのフンのなかにダイブ・・・・
オレは笑いがこみ上げてくるのを必死に堪えたが
 
「ぶ・・・・・ぶははははっは!!
 おまっ・・・さっき・・・!フンのなかに・・・!あははははー!!」
 
耐え切れずに噴出してしまった。
 
「笑いますか!?誰のせいでフンのなかに突っ込んだと思ってるんです!?」
 
ナイツはオレに食ってかかる。

「いや、確かに悪いことしたと思うけど・・・ ぶ・・・はははっは!!
 ・・よ・・・よりによってなんでそんなとこに突っ立ってたんだよ!あははははー!」

オレは悪いと思いながらもナイツの不運を笑ってしまう。
ライアは下を向き、オレたちに背を向けているがその方が震えてる。
 
「ま・・・まあ・・よかったではないか。水のなかに飛び込んでフンは洗い流せたん・・・くくっくく・・・!」
 
ライアは慰めの言葉を言いながらも最後のほうで堪えきれずに笑いが混じる。
 
「ライアちゃんまで・・!ひどいですーーー!!!」
 
ナイツは涙目になって叫ぶ。
 
そんな時
 
どぐわああーーん!!!
 
派手は爆音と共に壁が砕け散る。
 
「な・・・なんですかっ・・!?なんですかシュガーくん!?」
 
ナイツがぐいぐいとオレを盾にしながら問う。
 
「オレに聞くなっ!そして押すな!!」
 
激しい土煙で当たりは霧のように前が見えない。
・・・ていうかこの洞窟大丈夫か・・・?
さっき散々ライアが壁壊しまくったし・・また壊れてるし・・そろそろ崩壊するんじゃあ・・?

 そんな嫌な予感がオレの頭に過ぎった時、『それ』は土煙を破って現れた!
 

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